歯科医院の事業譲渡で損をしない3つのポイント!

「M&A」とか「営業権売却」という言葉を耳にされる機会も増えているのではないでしょうか。それは、歯科医師であることをリタイヤされる方が増えてきているからです。しかも、歯科医院を黒字で経営しているのにも関わらず、廃業・閉院というケースが多くみられます。

少し大きな話をしますと、わが国の経済問題のベースになっているのが、人口動態です。

先進国は、日本と同じように少子高齢化、生産年齢人口の割合逓減、現役世代の重い社会保障負担…となってきています。きたる2025年には、団塊の世代の全てが75歳を超え、歯科医師業を事実上廃業される方の割合が、大幅に増えることが予想され、政府も事業継承に関する様々なサポートを始めています

このような状況下において、将来ご子息や勤務医の先生に歯科医院を継承をされないことが決定している院長は、ぜひこの記事を参考にされてください。

1. 歯科医院特有の事業売却の問題点!

①売却先が見つからない

1、有資格者でないといけない

歯科医院の機材や営業権、医療法人、場合によっては、歯科医院の建物、土地も含めて売却を希望されると思います。しかし、買い手側には重要な条件があります。それは、歯科医師(医師)であることです。歯科医師でなければ、歯科医院を運営することはできないからです。当然だと思われるかもしれませんが、この制約が一気に買い手の数を減らしてしまいます。

2、診療圏による軋轢があり難しい・・・

前述の条件をクリアし、やっと歯科医師である買い手候補者が見つかったとしても、それが歯科医師会の仲間だったらどうでしょうか?他の歯科医師会メンバーの診療圏を脅かす事業譲渡にはならないでしょうか。経営が順調な歯科医院が、近隣の歯科医院を買収する場合、当該診療圏において間違いなくリーディングカンパニーになる事でしょう。「ねたみ」は必ず発生すると想定してください。

3、友人・知人も同世代である

事業譲渡を希望する場合、まず、ご友人・知人に声をかけると思います。ご年齢がある程度高齢になってからの譲渡の場合、売却希望の先生のご友人・知人もまた、ご高齢です。したがって、ご友人や知人の先生が、購入希望になる可能性は低くなります。以上のような理由から、売却先を見つけるのに苦労されている場合が多いようです。

②交渉の仕方がわからない

1、マッチングが成功しても進まない

運よく購入希望の先生が見つかったとしても、なにから始めましょうか!?とりあえず購入希望の先生に、医院を見学していただき、一通り説明をしたら、そのあとどうしたらよいのでしょうか。いきなりお金の話をしますか?その前に伝えないといけないことは、もれなくお話居ましたでしょうか。買い手側の先生が不安に思っていることは無いでしょうか。

2、中間業者がみつからない

やっぱり第三者に間に入ってもらいたい。そう思いませんか?出入りの業者にきいても、そのような交渉をサービスでやってくれるところはありません。税理士さんに聞くと、どのように事業を終わらせるのかアドバイスしてもらえます。とても役に立ちますが、それは会計処理上のサポートであり、買い手側の気持ちを考え、なおかつ、こちらに有利に話を進めてくれる訳ではありません。

3、契約の仕方がわからない

交渉が進んで、だいたいの契約内容をすり合わせたところで、契約をどのようにすべきか、考える必要があります。患者さんの情報をどのように引き継ぐか、医院名を変更するのか、医療法人の出資金はどのように処理するのか、築いてきた資産は、スタッフの処遇は、・・・今まで契約書なんて作ったことのない先生は、どのような段取りで話を進めればいいのかわからないのは当然のことだと思います。

➂手続き等がわからない

1、保健所に何を届ければ良いのかわからない

いざ、継承をしようと思うと、手続きが意外に難しいとよく聞きます。開院、リニューアル、場合のよっては分院展開、医院名変更、標榜科目の追加、と、いままでご自身でしてこられた手続き関係ですが、なにをどこに、どのタイミングでやるのがいいのか?相手方もいることだし、自分1人の気持ちで動いても良くない・・・合理的に考えると~~わからん!となるようです。

2、都道府県に何を届け出るのかわからない

歯科医師同士が譲渡契約をする場合は、診療所の開設の際と同じ役所に届け出てください。保健所だけでなく、都道府県への届け出も必要になる場合がありますので、そんなときは行政書士さんにお願いしても良いと思います。医療関係にお詳しい行政書士さんの場合は、丸っと依頼してしまうのが良いかもしれません。今までお付き合いが無い方に、いきなりお願いするのも抵抗がありますよね。ある程度、ご自身で知識をつけてからの方が、良いでしょう。

3、相手先が医療法人の場合はどうなるのかわからない

ご自身が、個人事業主で医院系を長くやってこられた先生は、買い手側が医療法人の場合、勝手がわかりませんよね。また、売り手側が医療法人の場合も、純資産を引き出すタイミングや、出資について、理事について、社員(従業員ではない)について、引き継ぎ方はとても難しいと思います・・・。一体どのような流れで話を進めていきましょうか。まずは、わからないことが何なのかそれがわからない。

2. M&Aの各フェーズはこうなってる!

① 意思決定とマッチング

1、いつ・どうしたいのか自分と向き合う

まずは、いつまでに医院をやめたいのか。それをきめることが大切です。自費治療をおこなった患者さんで心配な方はいませんか?先生のともに戦ってきてくれたスタッフさんは、どのように考えているでしょうか。いったん、内々に話をするタイミングを決定しておきましょう。先生のご自身も第二の人生を考え、ご家族とも話合い、ベストなタイミングを決めましょう。

2、費用はどの位かかるのかざっくり計算

費用については、ざっくりと把握しておく費用があります。契約書を作成を依頼する費用、ご自分の医院もしくは、買い手側医院の経営状況も調べるべきです。また、細かいところですと印紙代。買い手側との打ち合わせにかかる費用。その他諸経費をざっくり計算してみて、売買価格決定の際にも検討材料としましょう。

3、購入先にめぼしい人はいるのか考えてみる

購入してくれる可能性がある人を書き出してみましょう。仲の良い先生はいませんか?そのご子息はいかがでしょうか。大学時代の仲間、そのご親族の歯科医師の方にお知り合いはいませんか?分院展開しているような若い先生は、いかがでしょうか。セミナーや、勉強会で何回か食事をしたような先生はいらっしゃいませんか。

② 基本合意

1、2段階で契約すること

このような契約の場合、2段階に分けて行うことをお勧めします。理由は2つあります。一つ目は、契約内容が多岐にわたるため、最初の合意事項から少しずつ、ずれてくる場合が多くあります。その防止に、仮契約を結ぶのです。また、本契約までの期間が長くなった場合、なんとなく初めのころの「買いたい!or売りたい!」モチベーションが失われていきます。その防止のために、2段階契約をお勧めしております。

2、基本合意に向けて活動すること

買い手側の先生がある程度、決まったら、まずは連絡をしてみましょう。相手の先生は、唐突な申し出にびっくりすると思います。そこでひるまず、歯科医院を売却した旨を申し上げてください。興味があるようでしたら、医院の見学、条件のお話合いと進行し、ある程度話がまとまったところで、売買事項をまとめて、書面にして、仮契約を結びましょう。これが基本合意です。この時点で、手付金(契約金額の5~10%)を頂戴してください。

3、売却側歯科医院の経営状態をまとめる

この売り手側の経営状態を書面にまとめる作業を、仮契約の後に持ってきたのは、買い手側の「本気度」を計ってからの方が、無駄が無くて良いからです。買い手側が冷やかし程度で契約を進めているかもしれません。その場合は最小限の被害で済むようにします。経営状態は日々変わりませんので、最新の情報が必要でしたがって、基本合意の後に開始します。

➂認知活動(PMI)

1、スタッフに伝える

買い手側の方と基本合意を済ませたら、まずはスタッフに相談します。このタイミングがベストであると考えています。具体的に買い手側もみつかり、基本的な条件は合意に至ったことをお伝えください。通常、このタイミングから、最低2ヵ月、平均的には3~4か月かかります。場合によっては、基本合意から一転、交渉決裂なんてこともあります。しかし、スタッフも準備があるので、あまり秘密にしておくことはできません。

2、患者さんに伝える

スタッフに話をし、話合い、患者さんに伝えるタイミングを決定します。基本合意をし、スタッフに伝えるタイミングで、患者さんへのアナウンスが必要になります。○年○月○日をもちまして、当歯科医院は、▲▲歯科に生まれ変わります。それを機に、院長の□□は、引退させていただくことになりました。云々・・・という感じの書面を作成し、待合室に張り出してください。

3、医院の文化まで含めて引き継ぐ

今まで院長が作ってこられた歯科医院の、理念のようなものを、話し合いの中でお伝えし、引き継いでいただくとよいと思います。そのことにより、患者さんへの負担が減るからです。可能であれば、従業員の再雇用も、売り手側院長から、買い手側にお願いしてください。このことにより、院長の退職による患者離れを少しだけ回避できると考えています。

3. 歯科医院の気になる譲渡金額は…⁉

①価格の決め方を教えます

1、損益計算書をみてみよう

損益計算書では、売上や費用も大切ですが、なんといっても利益です。利益には、「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」がありますが、この5種類医の利益の意味を把握してください。その上で、□□期平均で●●利益が▲▲円、出ています。というように、売却額決定のアピール材料をそろえてください。また、50万円以上の大きな経費については、説明できるように税理士さんと打ち合わせてください。

2、貸借対照表をみてみよう

貸借対照表は、見方がとても分かりにくいですよね。なので、お相手の先生も「あまり重要視しない」と思います。貸借対照表は、1年間の医院経営の成績をまとめている損益計算書とは異なり、ご開業から今までの試算や負債を合計を記載する書類です。資産や負債について確認して「資産<負債」となっていれば、債務超過といわれる状態です。あまり印象が良くないので、改善してからの方が、売却額の査定には有利になります。

3、患者さんの推移をみてみよう

買い手側の先生が一番気にされるのは、患者数ではないでしょうか。決算書には表れない重要な判断材料であり、直近5年位見て、患者数の推移がどうなのかが大切です。売却側としては、大きく患者数が落ち込んだ時点は、その理由を説明できるように準備しておいてください。その他、自費率も売却額の重要な判断材料です。以上の、1~3を検討し、売り手側と買い手側で双方納得する金額を決定します。

②歯科医院売却相場ってどのくらい?

1、一般的にM&Aの費用はどんくらいなの?

一般企業の場合、社歴がある一定期間より長いようであれば、時価換算した純資産に営業利益の5倍程度の金額を加える方法が良く使われます。しかし、それもこれも、買い手側があっての価格設定ですので、スーパーで商品を販売する時にように値決めをしても絵にかいた餅といえます。

2、地域による差はあるの?

歯科医院の場合、地域によって買収価格が変化することはありませんが、地域によって競合診療所の割合(歯科医院数/人口)が異なりますので、当然、経営の難易度が異なります。ということは、地域によって経営状態に差が生じているので、買収価格に影響すると考えられます。

3、歯医者の場合、相場はいくらなの?

さて、それでは「歯科医院のM&A相場」ですが、それは・・・ございません。たとえば「ジルコニアクラウンの相場」というような、平均的な価格というのは存在しません。また、だいたい真ん中位の数字「歯科医院M&Aの中位数」という統計もありません。大企業の事例以外には、ネットを検索したくらいでは情報が得られないのが実情だと思います。レセプト×●●円、とか、院長の額面給与を800万程度に換算した場合の1年間の利益の●●倍とか・・・言われますが。この算出方法も微妙です。詳しくはお問合せください。

➂交渉のキーポイントを教えます

1、相手の「気持ち」に配慮する

患者さんが歯科医院に定着するときは、どんな場合だったでしょうか。スタッフが何年も長く働いてくれるケースは、どんな状態でしたか。M&Aの交渉においても、相手との信頼関係が重要です。話をよく聞く、約束は守る、嘘はつかない、など「あたりまえの事を当たり前に」行ってください。そうすればきっと良い結果が得られると思います。

2、全体の進め方と今回の交渉について合意をとる

スケジュールと、ざっくりとした進め方を、はじめに決めてしまいましょう。当然「仮」の状態であることを前提に、とりきめましょう。その上で、交渉時には、いまどこの話し合いをしているのか、合意をとりながら進めると、目的を見失うことが少ないと思います。基本的ではありますが、重要なポイントです。

3、患者さんのことを第一に考える

そして最後になりますが、忘れてはいけないのが、患者さんのことです。いままで医院に来てくれた患者さんに感謝の気持ちを忘れないことです。こんな当たり前のこを書くまでもありませんが、治療途中の患者さんや、気になる口腔内の方、自費を入れてくれた患者さんや、ずっと通ってきてくれた方には、ちゃんと理解をしていただいてから、医院譲渡をされてください。

4.まとめ

以上、事業譲渡について、大まかに説明させていただきました。歯科医院の事業譲渡の場合、売上があまり良くないので・・・とか、赤字が続いているから・・・という理由で売却を希望されることが多いように思いますが、昨今では、売上高や経常利益が横ばい状態で買い手を探されている先生や、売上が増加傾向にも関わらず引退を決意されるケースも増えてきています。黒字廃業です。

前述の通り、中小企業や歯科医院においては、M&Aの情報がとても少ないので、わずかではございますが、弊社で今まで蓄積したノウハウを開示させていただきました。

歯科医院の事業継承には、法的な調査と契約、会計上の調査と引継ぎ、さらに各診療圏における売買終了後の健全な医院運営を見据えて活動することがポイントになります。事業譲渡に関しまして相談がございましたら、お気兼ねなくご連絡ください。

 

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